Saturday, January 15, 2011

2010年 注目の出来事

今更ですが、明けましておめでとうございます。去年は自分にとって色々と為になることが多くありました。ドイツへの研修、2度の発表会や、大型放射光施設シンクロトロンへ初めて行ったりしました。それらの経験を無駄にしないためにも、今年は研究期間の満期一杯まで頑張ろうと思います。さて、2010年も色んなことがありましたが、中でも注目の出来事があったので、それについて書こうかと思います。個人的にはとても重要な事だったと思います。

一般向けの科学に関する本を多く書いている、サイモン・シン(Simon Singh)という人がいます。彼はサマセット州ウェリントン・スクールを卒業しました。(自分の先輩という事になります)後に、量子物理学の研究で博士号をとった後に、ジャーナリストに転身し、数々のベストセラー本を書きます。自分が読んだものでは、

フェルマーの最終定理(Fermat's last theorem)
比較的シンプルに見える数学的問題が400年近くの年月をかけ、数々の数学者たちの挑戦の結果、証明に至る。

暗号解読(The code book)
暗号の歴史、そして進歩。第二次大戦で猛威をふるった独軍のエニグマや、暗号の未来を担う「量子コンピューティング」など。

代替医療のトリック(Trick or Treated)
今まで科学的な方法で検証されることのなかった代替医療。それらは効くのか、それともまやかしなのか。

などがあります。

代替医療を科学的な視点から検証する「代替医療のトリック」 が出版された2010年 --- そのしばらく後に彼は英ガーディアン紙に脊柱指圧療法(カイロプラクティック)を批判する内容の記事を書きます。カイロプラクティックには二通りあり、一つは純粋に整骨を目的とするもの、もう一つは指圧療法にて喘息やその他、骨とは関係ない病気をも治せると主張している代替医療の一種です。サイモン・シンが批判したのは後者の方です。

これに対し、代替医療派であるBCA(British Chiropractic Association 英国脊柱指圧協会?)はサイモン・シンを相手取り、訴訟します。BCAの狡猾な所は、起訴した相手が記事を載せたガーディアン紙ではなく、サイモン・シン個人である所です。裁判になれば個人よりもBCAの様な団体の方が多くの資金があるので、有利なのは明らかです。

僕はこれに憤慨しました。公平な視点から、ある事柄を批判するのは、科学が本来あるべき姿です。それらの批判が気に食わない、そして相手を起訴し勝てる見込みがあるというだけで、裁判を起こしていては、言論の自由に関わる問題だと思います。たしかにBCAが起訴をする、というのも言論の自由に含まれる権利かも知れませんが、しかしこれではフリーランスのジャーナリストが書きたいことも書けないことになります。実際、その点では現在の英国では法律の不備があると思います。

団体に対し、個人で裁判をすることになったサイモン・シンは苦戦しますが、同時期にSense about Science(科学に対する認識)というサイトを立ち上げ、結果として一般の科学的な考えに対する理解と認識が広まりました。これらの一連の出来事はネイチャーのポッドキャストの増刊号にてのインタビューが詳しいです。

結果はサイモン・シンが当初不利だったにも関わらず、裁判に勝ちました。正義が報われた瞬間です。裁判には勝ちましたが、サイモン・シンは多くの時間と資金を失いました。このようなことは、そもそも行われるべきではないのです。サイモン・シンの裁判の行方は、科学に関する人たちだけではなく、一般の間でも注目されており、サイモンの勝利は新聞に掲載されました。

僕が大学の研究所を歩いていると、そのサイモンの勝訴を報じる新聞記事の切り抜きが、廊下に貼られていました。僕以外にも大学で、サイモンの裁判を見守っている人が居たことや、またサイモンの様な人が先輩であり、インスピレーションを受けられることを嬉しく思いました。