さて、自分は前よりIPS細胞を作り出す方法を樹立した京都大学の山中伸弥教授がいつかはノーベル賞を受賞 するものだろうと確信しています。ノーベル賞とはその性格上主に、今や科学の化石と言われる技術に受賞されるものです。確かに、技術や発見が世の中に与えた成果や影響などを見極めるのに時間がかかるのは致し方ないかと思われます。しかし自分はいずれIPS細胞が医学に大きな影響を与え、そしてそれに対しノーベル賞が与えられることを信じております。
こう考えているのは自分だけではないはずです。IPS細胞の記事は頻繁に新聞や週刊誌などに掲載されていますし、テレビやニュースサイトで取り上げられることも、化学分野にしては比較的多いかと思います。IPSがメディアに頻繁に取り上げられる事自体は、科学成果を納税者に伝えるという点で間違ってはいないと思います。しかしここで僕がいつも気になるのが、異なる技術に対するメディアの取り上げ方、そしてそれによって生まれる消費者の偏見です。(繰り返し書いておきますが、僕はIPS技術に対し、肯定派です)
遺伝子組換え技術はヨーロッパ諸国や日本において、特に強い反発(偏見)に遭っていると思います。組み換え作物は生産、流通、消費、これら全てのプロセスにおいて安全性をチェックされているので、安全性には全く問題ないと思われるのですが、何故か受け入れられません。ここで僕がポイントとして上げたいのが、メディアにチヤホヤされ、将来の医療に期待を寄せられているIPS細胞も、それをつくる過程において、いわゆる遺伝子組換えに相当する作業が含まれているということです。
ES細胞を実験に使うことにおける倫理的な問題を回避できるとされるIPS細胞ですが、その生産方法を大まかに説明すれば、既に分化した細胞にヤマナカファクターと呼ばれる3つの遺伝子を導入することによって、細胞を分化する前の多能性な段階まで若返らせ、それを使い体の組織を作り、医療や実験に使おうというものです。
遺伝子を導入すること自体への安全性を懸念するのであれば、その対象を食料とするのか、もしくは医療用に身体へ適用するかでは、求められる安全性のレベルが極端に違うのではなかろうかと思うのは僕だけでしょうか。確かに、最近ではIPS細胞を作る過程において、ヤマナカファクターをDNAとしてではなく、RNAとして導入することによって、3つの遺伝子が細胞のゲノムに取り込まれることなく、細胞を若返らせるテクニックなども見受けられますが、もし仮に同様にRNAを使ったゲノムに一切手を付けずに穀物や野菜を改良する技術があれば、人々はそれを受け入れるでしょうか。答えはノーでしょう。
このような自問自答を繰り返すたびに失望するのですが、これに対する僕からの提案は残念ながら少ない。 サイエンスカフェなどの取り組みもありますが、このような取り組みに進んで参加するのは消費者のうちの一握りでしょう。やはり重要なのは人々がそれぞれ、「なぜ?」という質問できるようになれることでしょう。自分もまたその点において、未熟であります。このようなブログを書く資格もないのかも知れません。
人々への科学の理解を促す活動をしている著者にサイモン・シンと言う方がいます。(僕が尊敬する先輩です!)その人の著書に"Trick or Treated" (邦題:代替医療のトリック)があります。科学的に治療法を検証するとは何か、や、古くから伝わる代替医療は公平に検証された場合効果はあるのか?などについて書かれています。驚くほどたくさんの詐欺が大手をふるってまかり通っていうことに驚愕するでしょう。おすすめの本です。
追記
- 組み換え作物が安全性の可否については論じているとキリがないので略しました。
- RNAをつかった、導入する遺伝子がゲノム(≒染色体)に取り込まれないテクニックは、その改変が子孫に伝わらないので、遺伝子組換えに相当しないのでは?というツッコミを予想します。これは理論上はそうなのですが、現在の法律上ではそのような一時的な遺伝子の導入による改変(RNAi)なども「genetic modification」に属されると、学部時代に講義で聞きました。
- サイモン・シンの活動やBritish Chiropractic Associationによる彼への訴訟という一連の出来事についてはいつかまたのネタにします。英国に言論の自由あれ!
No comments:
Post a Comment